2021.06.10生産者に聞いた有機JAS認証取得前と後の経営の変化
こんにちは。有機農業者支援事務局です。
最近ではスーパー・直売所・ネット通販等、日常生活の様々な場面で有機農産物を見かける機会が増えてきましたね。ここ数年の有機食品の市場は、国内外で需要が伸びてきており、マーケット側からもニーズが増えているようです。
しかし、現在、日本の耕地面積に占める有機ほ場の面積割合は約0.25%程度です。(農林水産省 国内における有機JASほ場の面積/平成31年4月1日現在)そのため有機JAS認証の取得を考えている農業者にとって取得に向けた情報に接する機会や参考例が少ないのではないでしょうか?
今回は実際に取得した生産者の方へ有機JAS認証を取得する前と後ではどんなことが変わったのか、お話を聞いてきました。これから取得しようと考えている方に是非参考にして頂ければと思います。
併せて取得のポイントとして以下の点を挙げられていました。
取得のためのポイント
- 認証取得がゴールではない。それを使ってどう経営していくのかを考えておくことが大事。
- 日頃からの記録の習慣化が認証取得の近道。
大井 梓さん
有機JAS認証取得により販路開拓への良いアピール材料となると同時に、栽培管理に対する意識の変化と社会的信用度の向上の効果があったと感じています。
大井 梓さん
- 就農地:京都府京都市 ・経営規模:50a
- 就農年:2020年 ・栽培品目:ニンジン、ケール、ナス、キャベツ等 (少量多品目栽培)
- 有機JAS認証取得年:2021年3月 ・労働力:1名(本人) ※将来的には3姉妹での経営を検討中
なぜ有機JAS認証を取得しようと考えたのですか?
新規就農のため、まずは販路を確保する必要があり、消費者にわかりやすい目印として有機JAS認証を取得しようと考えました。
有機JAS認証を取得したメリットをどう感じていますか?
販路の拡大に確実につながったと感じています。有機JAS認証があることで地元の地場野菜コーナーとの契約の話がまとまり、さらにはオーガニック農作物を納品する共同出荷先グループにも入れてもらえることができ、販路の確保に役立ちました。
有機野菜セット photo by 大井 梓
有機JAS認証を取得する前と後では経営に変化はありましたか?
取得してまだ年数が経っていないため、効果は限定的ですが、慣行栽培作物との差別化による販路の確保はもちろんのこと、ほ場や栽培管理に対する意識やその体制作りを考えるようになりました。新規契約先に、管理記録を求められたときに、しっかりとした内容の記録ですぐに対応ができることから社会的な信用の増加にもつながると感じています。何も実績のない私(新規就農者)にとって、販路開拓への良いアピール材料となると同時に、栽培管理に対する意識変容と社会的信用度の向上の効果があったと感じています。
有機農業の将来と、望むことはありますか?
近年では、全国の自治体において、子供たちの健康・地域再生の起爆剤として「有機学校給食事業」が広がりつつあります。現在は有機食品の購入のためには、消費者の側が探さないと見つけられないものですが、こうして子供の頃から有機食品に触れることで、彼らが大人になる頃には“オーガニック”が当たり前の社会となり、それを当たり前に手に取れる社会になればいいなと感じています。
農作物の収穫風景 photo by 大井 梓
有機JAS認証取得希望者へ伝えたいことはありますか?
農作業と並行して書類作成等の時間・手間の部分があるため、決してメリットだけではありません。そのため、有機JAS認証の取得を目的とするのではなく、“認証マークを使ってどう経営していくのか“を経営計画、戦略としてしっかり考え込んだ上で、取得されることをおすすめします。また、新規就農者にとって、農機具や資材、その他でも様々に出費がかさむ中、有機JAS認証取得を考えているのであれば、本制度の様な金銭的な補助制度は活用しておいて損はないと思います。
七帖 計太さん
今は有機JAS認証取得による経営への大きな変化の実感は少ないですが、畑ごとに作業の内容を細かく記録するようになり自身の考え方や行動の変化を感じています。
七帖 計太さん
- 就農地:茨城県鹿嶋市 ・ 経営規模:1.3ha
- 就農年:2019年 ・栽培品目:サツマイモ・ジャガイモ・ニンジン・タマネギ等 (季節に応じて計11品目)
- 有機JAS取得年:2021年3月 ・労働力:3名(本人・配偶者・アルバイト)
※繁忙に応じて親や兄弟+2名
なぜ有機JAS認証を取得しようと考えたのですか?
他の農作物との差別化による販路の確保という点もありましが、私の考えとして「手間はかかるが、農薬や化学肥料、除草剤は使わない。そんな自然の循環ができた土壌で育つ野菜が一番おいしい。子どもたちが野菜を好きになって安心して食べられる。そんな野菜を作りたい」と考えており、自然の力で生産された食品を示す、有機JAS認証を取得しました。
有機JAS認証を取得する上で、大変だったことはありますか?
事務作業やPC作業が苦手であったため、栽培履歴の記録系の作業は大変でした。また、自分流の栽培日誌の記入以外の習慣がなかったため、細かな点まで記入が求められる有機JAS認証様式の記入方法がわからず、直接、認証団体へ問い合わせ、記入方法を指導してもらいながら進め、苦労しました。
有機JAS認証を取得する前と後では経営に変化はありましたか?
今はまだ転換期間中表示での出荷となるため、経営への大きな変化としての実感は少ないです。しかし、認証取得のためには自分流よりもより細かく、より丁寧に畑ごとの栽培履歴の記録を行う必要があり、それに対応できるよう、「○○を○kg○○の畑に散布した」等、細かく記録するようになり自身の考え方や行動の変化を感じています。
商品陳列の様子 photo by 七帖 計太
有機農業の将来と、望むことはありますか?
有機栽培の農作物がスーパー等の店頭に普通に陳列され、有機農作物が当たり前に市場に流通する社会になっていければ良いなと思います。そのためには、まず当たり前のことですが、農家がちゃんと有機JAS規格を遵守した農作物を提供することが第一。その上で、慣行栽培の農作物と比べ、見た目・価格等遜色ないレベルで提供できるよう努力を重ね、消費者の下へ届け、食べて欲しいと感じています。有機食品の需要は今後増えると考えているため、どんどん普及させるためにもそういう農作物を作り続けていきたいと考えています。
有機JAS認証取得希望者へ伝えたいことはありますか?
自分流の栽培日誌ではなく、もっと細かな点まで意識した栽培履歴の記入を心掛けておけば、認証時の事務作業が軽減できたのではと反省しています。そのためにも取得を考えている認証団体の様式を確認しておき、どのような記録が必要となってくるのか、どのように記入しなければならないのかを把握した上で、日々の記録の習慣化が非常に重要になってくると考えています。
タマネギ畑の栽培風景 photo by 七帖 計太