2021.07.16有機JAS認証に取り組む上での注意点5選
こんにちは。有機農業者支援事務局です。
有機JAS認証を得るためには農林水産大臣が定めた品質基準や表示基準を満たす必要があり、有機栽培で生産を行っている場合でも、栽培時に有機JAS規格で認められていない資材の使用、栽培管理を行っていると認証を受けられません。認証の取得へは、日々の管理記録の積み重ねが重要であり、制度への理解不足は認証取得への遠回りとなってしまいます。
そこで今回は認証取得へ向けて、ミス・勘違いを起こしやすい場面5選をピックアップしてみました。以下の点ご注意下さい。
①水耕栽培農産物は有機JAS認証の対象か?
農薬や化学肥料を使用しない農産物であっても、有機 JAS 規格の生産基準に該当しないものは、有機農産物という名称を表示することはできません。有機農産物の生産の原則に「土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させる」とあるため、土壌を用いない栽培は有機農産物の基準を満たしません(即ち有機と表示できない)。
ただし、平成17年の規格改正により、土壌を使用しないきのこについては、有機表示が可能に、さらに平成27年の規格改正により、水のみを与えて水耕栽培されたスプラウト類は有機JAS格付の対象となりました。ただし、液肥を与えたり人工照明を使用した水耕栽培は認められません。また、ほ場において栽培されたスプラウト類も引き続き格付することができます。(スプラウト類の栽培に使用する種子は、有機の種子でなければなりません)
引用:有機農産物検査認証制度ハンドブック(改訂第5版) 2.3.3 有機農産物の定義に該当しない農産物
②ほ場等の条件について、有機的な管理を開始したとみなされる時点はどの時点からか?
有機栽培に転換したからといって、その年から有機栽培と表示することは出来ません。有機表示するためには下記の転換期間が必要となります。
- 一年生植物:転換開始から、最初の播種又は植付けまでに、2年以上経過していること
- 多年生植物:転換開始から、最初の収穫までに、3年以上経過していること
- 開拓ほ場や休耕ほ場等で2年以上使用禁止資材が使用されていないほ場の場合:転換開始から、最初の播種又は植付けまでに、1年以上経過していること
- 採取場の場合:採取前の3年以上使用禁止資材が使用又は飛散していないこと
その上で、多年生作物については、禁止資材の使用を中止した時点をもって有機的な管理を開始したとみなすことができます。
引用:有機農産物検査認証制度ハンドブック(改訂第5版)1.1.2 ほ場履歴転換期間の概念図:多年生作物
これに対して、多年生作物以外の作物については、禁止資材の使用を中止した時点において栽培されている作物がない場合には、その時点をもって有機的な管理を開始したと見なすことができます。しかし、禁止資材の使用を中止した時点において栽培されている作物がある場合には、その作物を有機的な管理下におかれた作物と見なすことはできないことから、その作物が収穫された時点をもって有機的な管理を開始したと見なすことができます。
引用:有機農産物検査認証制度ハンドブック(改訂第5版)1.1.2 ほ場履歴転換期間の概念図:一年生作物
収穫の1年以上前に有機に転換していた場合で、ほ場履歴の基準以外のすべての有機基準を満たした場合は、認定をうけて「転換期間中有機○○」の表示をすることが可能です。
引用:有機農産物検査認証制度ハンドブック(改訂第5版)1.1.2 ほ場履歴転換期間と有機の期間の概念図:一年生作物で、禁止資材の使用を中止した時点において栽培されている作物がある場合
※(注)と記載した時点の収穫を転換期間中と表示できるかどうかは、記録の作成状況と申請、および収穫のタイミング等の条件により異なるため、認定機関にてご確認下さい。
③ほ場における肥培管理ではどのような資材が使用可能か?
肥培管理について、有機栽培の生産の原則にのっとり、かつ以下の方法によって土壌の性質に由来する農地の生産力の維持増進が図られるよう定められています。
- ① 当該ほ場等において生産された農産物の残さに由来する堆肥の施用
- ② その他の当該ほ場若しくはその周辺に生息若しくは生育する生物(ミミズ、昆虫、微生物など)による有機物の分解や生物の物質循環による土壌の質的改善
- ③ 作物の栄養成分の不足により正常な生育ができない場合に限り、別表1の資材が使用可能
- ④ 当該ほ場若しくはその周辺以外から生物を導入することができる
自然循環機能の維持増進を図る必要から、基本的には上記①と②による土づくり(物理的、化学的、生物的な土壌改良)を行い、地力を高め、肥沃な土壌にしていくことが求められます。しかし、原則だけでは難しい場合には③により別表1の資材(肥料及び土壌改良資材)の使用が可能です。
※はじめから別表1の使用を前提として、土づくりをないがしろにしては原則に反することとなります。
肥料資材の確認のポイント
- 1.メーカーからの原料・製造工程の説明資料を入手し、製造工程で化学的処理・化学的に合成された物質の添加がないかを確認する。
- 2.保証成分は同じでも、原料や工程が変わり基準に適合しなくなることがあるため、原則毎年資料を取り寄せ原料、製造工程の確認をする。
- 3.資材の適合性判断基準及び手順書を活用する。
- 4.有機JAS資材評価協議会の資材リストの資材を利用の活用する。
④ほ場における有害動植物の防除ではどのような資材が使用可能か?
有害動植物の防除の方法として、耕種的、物理的、生物的防除方法又はその組み合わせによる方法のみによって実施されることと定められています。
- 耕種的防除…作目や品種の選定・灌漑・耕起/中耕・栽培時期の調整等
- 物理的防除…光の遮断・種子消毒・土壌の太陽熱、蒸気利用による消毒・人力/機械での除草等
- 生物的防除…微生物・動物・植物(コンパニオンプランツ、カバークロップ)の利用等
※ただし、農産物に急迫した又は重大な危険がある場合で、上記の防除方法だけでは対策が取れない場合は、別表2の農薬が使用可能となります。しかし、リストアップされた農薬は恒常的に使えるわけではなく、近接したほ場等又は該当ほ場内で有害動植物が発生し、又は経験的に発生が確実に予測され、これを放置しておくと農産物に多大な被害が予測される場合のみ使用が可能です。
別表2では、別表1と異なり「その他の農薬」の欄がないので、この許可リスト以外の農薬は一切使用できません。
例えば…
木酢液は、「有機農産物の日本農林規格」別表1「肥料及び土壌改良材」の「その他の肥料及び土壌改良資材」に該当するかどうかを検討し、使用の可否を判断することになります。しかしながら、別表2「農薬」には掲載されていないため、農薬として使用することはできません。
★虫よけスプレーのように人の保健のために使用する防除用医薬部外品にあっては、ほ場や作業場に入る前に使用するなど農作物への混入をできる限り防止した上で、使用することができます。
⑤ほ場は、周辺から使用禁止資材が飛来し、又は流入しないように必要な措置はどのように判断するのか?
具体的な判断は、ほ場の置かれている状況により異なることから、各認証機関が判断することになります。
例えば、慣行栽培のほ場と隣接している場合は、 隣接地との間に十分な広さの道をつくる、緩衝地帯に別の作物を栽培する(その作物は有機として販売しない)、充分な緩衝地帯の確保や防風ネットや生垣を作るなどの植栽の設置などで使用禁止資材の飛来・混入を防ぐ必要があります。
また、水田では用水を通して使用禁止資材が水田に直接流入することがないように対策をとる必要があります。用排水兼用の水路や上流で慣行栽培のほ場から排水が入る構造の水路を利用している場合などは、浄化水田の設置が必要です。ただし①河川・用水路(排水兼用水路は除く)から取水した用水②井戸水③水道水④雨水等を利用する場合は、使用禁止資材混入防止のための措置を講じる必要はありません。
【参考資料】
・農林水産省「有機農産物検査認証ハンドブック(改訂第5版)」
・農林水産省「有機農産物、有機加工食品、有機畜産物及び有機飼料のJASのQ&A(令和3年6月現在)」