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2020.07.21生産者からみた有機JAS認証取得のメリットとデメリット


photo by ONE DROP FARM

6月…。当社の農場でもちょうど有機JAS認証の年次検査の時期が来ました。

有機JAS認証を取得している農場では、年に1回、「年次検査」という検査をうける必要があります。検査といってもそれほど大げさなことではなく、それぞれの圃場や登録されている施設が、有機JAS認証を取得したときに定めた「内部規定」に沿って運営されているかどうかを、第三者(検査員)にチェックしてもらう、それだけといえばそれだけです。

 

有機キャベツの出荷風景
photo by ONE DROP FARM

 

有機キャベツの出荷風景
photo by ONE DROP FARM

 

当社の場合は、現在2.1haの圃場で認証を受けていますが、準備としては今日か明日に3時間くらい、デスクワークの時間がとれれば完了かな、と思っています。

 

その書類を認証協会でチェックしていただいて、1ヶ月後くらいに実際に「検査員」が農場にやってきて、現場が書類どおりになっているかどうかをチェックしてもらいます。

検査員による実地チェックでは、出荷した農産物についても、納品書や出荷履歴などから、ランダムに抽出して、表記や履歴に誤りがないかどうか、数量に誤りがないかどうかなど、トレース検査してもらいます。本年度からは「抜き打ち」での実地検査も行われるようになったと聞いています。

 

で、どんな準備をするかというと、種や肥料の納品書など、書類を整理したり、所定の「申請書(といっても昨年の書式がデータで戻ってくるのでそれを更新するだけ)」を記入したり、検査がスムーズに行われるように作業履歴を圃場ごとにソートしなおしたり、といった程度です。まぁ、それでも毎回、1〜2点、書類不備で指摘を受けますが、多くはスキャンしわすれた伝票をデータで認証協会に送付する、といった程度です。

年次検査のための書類
photo by ONE DROP FARM

 

そんな最中ですので、せっかくですからここでは、有機JAS認証を取得している農場からみた有機JAS認証の手続きやメリット、デメリットについて何回かにわけてご説明していきたいと思います。

 

そもそも、なぜ有機JAS認証を取得しようと思ったのか

私がはじめて有機JAS認証を取得したのはかれこれ10年前、前職の農場を設立したばかりの頃でした。循環型の農場にしたいと考えていて、そうしたやり方を、消費者に対しても「ガラス張り」にしていく方法として何かよい方法はないか…? と考えていたときに、当時お世話になっている指導者の方から有機JAS認証のことを教えていただき、「これだ!」と思って取得することにしました。

 

人の口に入るものを作る立場として、お客様に対して常に「ガラス張り」でありたい、という気持ちは今も変わりはなく、3年前に新しい農場の運営に関わることになった際にも、生産圃場に関しては有機JAS認証を取得することに迷いはありませんでした。

 

有機圃場を上空からみたところ
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有機JAS認証についてのさまざまな誤解

とはいえ、有機JAS認証については、巷では賛否両論、さまざまな意見があります。ものごとには賛否両論あってしかるべきだと思いますし、今の制度も完璧な制度というわけではありませんので、様々な指摘をもとに蓄論がなされてはじめて、良い制度へと成長していくのではないかと思っています。

そんな中でも、「いくらなんでも、ちょっとそれは誤解では、、、?」と思うことについて、いくつか列挙したいと思います。

 

【有機JAS認証に関してよくある誤解】

  1. 認証費用が高すぎる!認証団体が儲けすぎている!
  2. 手続きがあまりにも大変!書類が多すぎる!
  3. パソコンができないと認証が得られない!
  4. 認証をとっても販売にはメリットがない!

 

1. 認証費用が高すぎる!認証団体が儲けすぎている!について

認証費用は、認証団体によって様々です。良心的な価格の団体を選べば、個人であれば10aあたり3,000円〜4,000円程度、法人でも7,000円〜8,000円(圃場の枚数等の条件による)に収まります。ちなみに、当社の昨年の検査料は2.1haに対して、下記のような金額です。

 

・事務手数料:                             10,000円

・圃場数加算:                               5,000円(1枚につき1,000円×5枚)

・面積加算:                              43,000円(2ha以上、3haまで43,000円)

・実地検査費用:                         30,000円

・判定料:                                       5,000円

・情報管理料:                             10,000円

合計 :                                    103,000円(10aあたり4,904円)

 

実際にはこれに検査員の交通費が請求されますが、検査員さんは県内から来られますので、プラス数千円、というところです。

これを高額と思うかどうか、ではありますが、国の「環境保全型農業直払交付金」が有機JAS圃場に対しては、10aあたり14,000円支給されることを考えれば、実質的には生産者の負担はほとんどないと考えてもいいのではないかと思います。

 

ただし、確かに、導入時にかなり入念な指導があったり、そもそも団体に加入するための入会費のようなものがあったりと、比較的高価な認証団体もあるようですので、そのあたりは慎重に選ぶ必要があると思います。

 

2. 手続きがあまりにも大変!書類が多すぎる!について

これも、誤解とまではいいませんが、冒頭にも書いたように「人の口に入るもの」を作る生産者として、有機JAS認証で求められる資料や記録が整っていない、というのは、認証うんぬんの前に、生産者としていかがのものか、と私は個人的に思っています。

 

個人経営であれ、法人経営であれ、食べ物を作っているわけですから、使用した資材やその資材がどんな原料で作られているか、使用した量や回数に間違いはないか…、そうしたことをきちんとチェックして、記録に残しておく、というのは、大切なことだと思います。有機JAS認証は、そうした「生産者として必要な記録」をきちんと残してあれば、基本的には大丈夫です。

 

ただし、それを第三者が見てわかりやすいように整理する、整える(場合によってはコピーしたり、綴じなおしたり)、ということについては、煩雑だと感じる人もいるかもしれません。ですが、そうしたものも、日頃の記録と保管がきちんとできていれば、年次検査の前に半日程度、時間を割けば(雨の日にでもやっておけば)、基本的には問題なく整うと思います。

 

次回の「メリットとデメリット」というところでも触れたいと思っていますが、私は、農場のマネジメントをある原則で正しく行っていく上で、有機JAS認証の基準というのは非常に役に立っていると思っています。

 

3. パソコンができないと認証が得られない! について

これは完全に誤解だと思います。実際に、私が検査員としてお邪魔している農場では、半数ちかくが「手書き」の書類による検査です。そもそも、「有機JAS法」が施行された当時は、あまりパソコンを使われないベテラン有機農家さんたちが認証取得者の大半だったわけで、そうした方々が認証を取れるようにすることを想定して、認証の手続きが設計されています。

むしろ、エクセルや専用の農場日誌ソフトを使用されている農場よりもずっと緻密で、正確な記録を手書きで実施されている農場もたくさんあります。

 

以前おじゃましたベテランの有機農家さんで、「作業履歴を見せてください」とお願いすると、びっしりと書き込まれたカレンダーが何年分も出てきたことがあります。手書きですので、判読に苦労する箇所も多々ありますが、しかしながら書かれている内容は我々若手農家にとっては非常に勉強になることばかりでした。筆跡からも、毎日、都度都度、記入されていることが明らかでした。

長い年月にわたり、お客さまと信頼関係を築きあげてこられた農家さんは、やはり、それだけの地道な努力をきちんとされているんだな、と尊敬の念を新たにしたことを鮮明に覚えています。

 

4. 認証をとっても、販売にはメリットがない!について

これは、正直にいうと「生産者次第」ではあります。

認証を取る前にどの程度のものをどの程度の価格帯で販売していたか、ということにもよると思います。現状ですでに十分な販路と売上が確保できているのであれば、確かにメリットは感じられないかもしれません。

しかしながら、少なくとも「有機農産物として販売する」という意味においては、メリットうんぬんというよりは「必須」である、と考えるべきではないかと思います。別の記事にもあるように、現在は「法律」として定められており、認証を得ていない農産物については「有機農産物」と表記して販売することはできません。

そうした観点から、多くの量販店や仲卸業者が、有機農産物をもとめる消費者や取引先に対して「有機認証」の得られた農産物提供できるように探し続けています。そうした方々にとっては、まだまだそうした「認証」農産物が不足している状況であり、展示会や商談会に出展していても、有機JASマークが表示されているだけで、商談を希望する方が次々に話しかけてくださる、ということはよくあります。

 

有機JASマーク入りの有機にんじん
photo by ONE DROP FARM

有機JAS認証証
photo by ONE DROP FARM

 

そんなわけで、有機JAS認証については、賛否両論、誤解も入り混じっているわけですが、次回は、そうした認証を取得するメリットやデメリット、そして、認証取得までのプロセスについて、ご説明していきたいと思います。

 

【次回の記事】

  • 生産者から見た有機JAS認証のメリットとデメリット
  • 消費者からみた有機JAS認証のメリットとデメリット
  • 検査員としての視点からみた有機JAS認証制度
  • 認証取得までのプロセス

 

ライター:豊増洋右(とよます ようすけ)
株式会社ONE DROP FARM代表。1976年佐賀県うまれ。2010年に千葉県木更津市で有機農場の設立に従事したときから、有機JAS認証による有機農産物の生産、販売にとりくみ、のべ10haでJAS認証を受けてきた。JOIA(日本オーガニック検査員協会)の登録検査員として、検査業務にも携わっている。